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景にとって俺は何だろう。 弟。血の繋がらない弟か。 俺に対する愛情は感じる。 だがそれはある意味家族愛でしかない気がする。 少し近づけた気がしたのに なんだか あれもそういう意味では無かった気がする。 ただ 弱みにつけこんだ。。 あんなに家族になりたかったのに 今は違うものが欲しい。 違う絆が欲しいのだ。 「・・人間は欲張りなもんだな。」 ひとりで呟き ベランダに出てタバコに 火をつける。唯一この部屋でタバコを 吸ってもいい場所だ。 「タバコなんてやめればいいだろーが」 と苦々しく許可を出した景は 次の日俺のために灰皿を買ってきた。 自分の物の片付けも満足にしない癖に 銀の筒状のそれはいつも俺が来る前に 洗ってある。 今日はもう帰ろう。 今はなんとなく景の顔を見るのが辛い。 自棄になっていた自分にしっぺ返しも 食らっている。 景は何も言わない。余りに普通だ。 それも家族としての愛情だから? 少し嫉妬でもしてくれたら。。勝手な言い草だ。 絶対に諦めない。それは本当だ。 でも疲れた。 元にも傷ついた羽根を休める時間は必要なのだ。 タバコを消し 部屋に戻り スーツのジャケットに 手をかけると 景の部屋から悲鳴が聞こえたような 気がした。 気のせいかもしれない。 そっと部屋のドアを開けると 景がうなされていた。 身を捩り汗をかいている。 景は子供の頃からよくうなされた。 ベッドに近づき景の身体の横に座る。 手を差し伸べて 起こそうとすると 「・・っああっ!!」と景が飛び起きた。 はぁはぁと荒い呼吸に下を向き 大きく息を吐く。 声をかけると 頭を上げ目の前の 俺の顔に気づきビクッとして後ずさりした。 景を助けたい。 俺はいつもそう思っている。 「・・・まだ見るんだな・・」 景があの夢を見るのは 景の中で 何も解決していないからだ。 勿論事件はそんなに簡単に解決はしない。 ましてや二十年以上も前の話なのだ。 ただ 俺がそばに居ることで もしかしたら 少しは景の気持ちが楽になってるのでは ないかと思っていた。 また最近よく笑うようになったし 俺が気づいていないと思っている景は たまにじっと俺を見ていることがある。
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