時期

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「景が好きだよ」 元は囁やくように言い 額をグリグリ押し付けた。 なんだか昔に戻ったような幼い仕草に 胸がボッと熱くなる。 顔を離し元はじっと俺の瞳を覗き込んだ。 返事を待っているのだ。 急に顔が火照る 元の灰色の瞳に見つめられると 喉の奥がきゅっと閉まる。 いつもクールな目線が 俺にだけ こんなに優しくなる。 余計に心臓が跳ね上がった。 自分で催促した癖に いざ自分の番になると あまりの恥ずかしさに言葉が出ない。 卑怯者め。。自分で自分が嫌になる。 きっと目の前で百面相を 繰り広げていたのだろう。 元はクスリと笑って軽くキスをした。 「もういいです。」 「いや・・っ・・ちょっと待って・・あの」 言い訳しようとする俺の口を塞ぎ 元はまた激しく口づけ始めた。 元の唇は ゆっくり頬に移動し耳筋を舐め また口に戻る。 ぞくりと快感が走る。気持ちいい。 なんでこんなに満たされるんだろう。 病院で始めて元とキスをした時は 本当に驚いた。 身体中が痺れ 見えない何かに包まれる。 それはとても安全で 一生そこから 出たくない。抱きしめられると心が震える。 こんなにも元に愛されていると感じた。 わからない。なんでこういう気持ちになるのか。 そしてしばらくしてから自分の感情も自覚した。 これは兄弟愛でなはく 恋愛感情なのだと。 はっきりあの時そう自覚したのに 寄ってくる 元を邪険にし続けたのには理由がある。 勿論 まず恥ずかしかった。兄弟のような 元に恋愛感情なんて ちょっと悪いことの ような気がする。 男を好きになった事も勿論ない。 だから気づいてしまうと余計どうしたらいいか わからない。 この手のことは昔から奥手だった。 口づけたあの日からどんどん月日は経過する。 自分にはやらなくてはいけない事もある。 ただ挫折して少し気持ちは落ち着いていた。 焦る必要は無いのだ。出来ることをやりながら いつか真実に近づけたらいい。 今までの景を知っている元が 異常なまでに心配しているのはわかっていた。 心配しないでも俺はもう大丈夫。 元が居るから大丈夫なんだよと 言ってあげたかったが その後あの事実を知る事で 胸の奥に黒々と燻る何かに 振り回され 更にうまく言葉が紡げなくなり 景は全く身動きが取れなくなった。 それから今まで ちょっとずつギクシャクと しながら それでも元は景のそばに 居続けた。たまに辛そうな顔を向けながら。
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