時期

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まぁね。 たかだかキスも1回しかさせないようなヤツがね ガタガタ言う権利は無い。 何も確かめ合ってもいない。 俺が文句言う事じゃない。 それでも想像しただけで胸が張り裂けそうだ。 今までだって色々あったのに 今はただ辛い。 元が他の男を抱いている。 数日ボーッと仕事も手につかず ケンに帰れ!と怒られた。 睡眠不足で 頭も痛い。 マンションになんとかたどり着き そのままベッドに潜り込む。 熱も出てきたかもしれない。 何もする力がなく ただ布団の中で震えていた。 目の前がぼんやり霞みがかっていく。 今日も元は誰かを抱いているのだろうか。 ヒンヤリとした手の感触に景は軽く目を開けた。 それでもやっぱりまだよく見えない。 ぼやけた視界から声がする。 「景? 大丈夫か?」 俺の大好きな声。 鋭くて 優しくて 甘い。 おでこに何かつけられた感覚がある。 服を脱がされ 身体を拭かれた気がする。 水を飲まそうとしてくれているのか 力が入らない景は首が支えられず ペットボトルからはうまく飲めない。 「・・・元」 なんとか飲まそうとしている元の腕を 燃えるような手で掴み 息を吸い込む。 フワッと香水が香った気がした。 男を誘う 麝香の香り。 「・・ 元・・ 飲ませて・・」 軽く口を開け ねだる。 一瞬固まった元は クシャりと顔を歪め 水を含み 口移しで俺の中に流す。 コクリと飲み干し もっととねだる。 元はもう一度繰り返す。 水が口から溢れ頬を濡らす。 飲み干しても元の唇は離れない。 濡れた頬を舐め上げ チロチロと舌先を舐め 急に強く口づける。 熱い口内を元の舌が這いずり回る。 景はまるで熱湯のように感じる唾液を飲み干した。 だんだんまた瞼が重くなる。 「・・その匂い ・・ どこの男を抱いてきたんだ・・・」 言っただろうか。 ただ頭で思っただけだったかもしれない。 瞼を閉じる前に垣間見た元の顔は 驚いていたような気もするけど。 景は朝まで一度も目を覚まさなかった。
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