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「景が可愛すぎる」
「・・・は?」
高嶺は元のデスクの前に立ち資料を読んでいた。
タバコを吸いながら
窓の外を眺めていたはずの元が
ポツリと呟いたので高嶺は資料から目を離し
なんだ?とばかりに聞いた。
「景が可愛すぎる。困った。」
あぁそうですか。
高嶺は苦笑し また目線を資料に戻した。
今日はこれからデカイ契約がある。
・・可愛いのか。
高嶺から見れば景はとても綺麗な男だとは
思うが 可愛さは感じない。
まだタバコをゆらゆらと燻らせている
柏木組次期三代目のこの男は
高嶺の親友だ。
まぁ。こいつも綺麗な男だけど。
高嶺は目の端でチラッと元を見る。
長身で引き締まった体躯は 俊敏さを併せ持ち
切れ長の瞳は灰色で メガネの奥で眼光鋭く
冷たく光っている。
色っぽい口元がたまらないわーっ と
前に景の喫茶店で常連のゲイバーのママが
言っていたが 確かに元はとても色気のある男だ。
そんな元と高嶺は両親が兄弟分で
組長を父に持つ元とは
物心ついた頃からずっと行動を共にしている。
一本気で情に厚く 誰からも慕われる元は
オヤジさんにそっくりだ。
今はあまり感情を露わにする事はしないが
性根は変わらない。
それでも元を纏う雰囲気は最初のそれから
ずいぶんと変わった。
子供の頃は快活で たくさんの友達を率いながら
野原を駆けずり回りよく笑いよく怒った。
それが思春期を迎えると 急に刃物のように
触るとキレる。 不安定さを隠しもせず
毎日荒れ狂っている元を見た時
一体何があったんだろうと不審に思った。
昔は聞かなくても自分からよく話して
きたのに 一切口を開かない。
そんな元の事を心配していたある日
雨に打たれびしょぬれになりながら
元はうちの前に立っていた。
その瞳は暗く 何も見ていない。
急いで冷たく凍った元の身体を
タオルで拭き、着替えさせ
暖かい部屋に招き入れて
ソファーに座らせた。
口を開くまでじっと待っていると
高嶺を見もせずポツリと元は言った。
景を性的対象として見ていると。
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