手紙

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ある日さゆりは恋をした。 客として来ていた父親だ。 さゆりは店を辞め 結婚すると万里子に告げた。 「幸せそうでね。本当に良かったなと 思ってたのよ。 あなたのお父さんも 真面目そうな人で。」 またねと手を振るさゆりはキラキラして 見えたという。 「私もその後しばらくして 実家に 帰らなければいけなくて お店を辞めて。 でも さゆりはたまに手紙をくれたわ。 子供が生まれた時も連絡してくれて。」 そう言って景を温かい表情で見つめた。 ところがしばらく便りが途絶え 心配になった頃 あの手紙が届いたという。 「変な人につきまとわれてるって書いてあって。 心配で電話したの。」 「母はそのつきまとっている男が 誰か言いましたか?」 思わず景は前のめりになる。 万里子は残念そうに首を振った。 「誰かは言わなかったわ。ただ口ぶりで 昔のお客さんのような気がした。 さゆりが店にいた頃 ストーカーみたいに しつこい客が居てね。」 ベッドの横の小さいボードの引き出しから するりと一枚の写真を出した。 「この真ん中の人がその人。 遠藤さん」 「えっ?」 景は急いで写真を覗き込む。 小さい店のカウンターに三人座り 正面から撮った写真のようだ。 真ん中に神経質そうな痩せた男が写っている。 端に若かりし万里子を思わせる女性もいる。 「店から出るさゆりを待ち伏せしたり アパートの近くで見たって話もあったり 当時みんなかなり心配しててね。。」 暴力団の構成員だと言う噂もあり 迷惑していても 店に来れば入れない訳には いかなかったと言う。 さゆりが結婚を期に店を辞めたと知ると 店中の物を壊し 警察が来て連行して行った。 それから万里子は遠藤を見ていない。
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