手紙

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景があんなに甘いとは知らなかった。 何枚も間に立っていた透明の壁を壊し 固く覆われた殻が割れ 剥き出しの 景が現れると 暖かい愛情が元を包み込む。 自分の気持ちをはっきりと理解すると 景は元よりも潔かった。 いっそ幼い。 素直になり感情豊かな表情で元を見る。 もう今ではどう頑張っても兄だとは 思えない。 相変わらず口は悪いが その端々に元への甘えを感じる。 そっと触ると 身体中から元を煽る 香りがふわっと立ち上る。 身を捩り目の周りを紅く染め 上目遣いに潤んだ目で見つめられると あっという間に理性が遙か彼方へ飛んでいく。 今まで元にとってセックスはただ 欲を出す手段でしかなかった。 それがどうだろう。 とにかく触りたい。景の身体中を舐め回し 全てを知りたくて隅々まで口づけたくなる。 景から立ち上る甘美な匂いに包まれると たまらなくなる。 これで己を景に突き入れたら どうなって しまうのか。 早く全てを手に入れたい。 でも焦って景を壊したくない。 景は男は初めてだし 体の負担も大きい。 この恋が叶うまで長かったせいかちょっと 俺は怖がっているのもある。 もう二度と景を失いたくない。 そう思い まだ必死に我慢していた。 触りたいのに触れない あの頃に比べたら 幸せな我慢だ。 今日景はあの手紙の受取人に会いに行っている。 やはり心配で一緒に行きたかったのだが 高嶺に連行され 渋々事務所へ行き 契約を取り交わす。 元の事務所は高嶺の働きにより 至って合法的だ。 今 ヤクザの世界も変わらなければ 成り立たなくなっている。 警察の圧力も強まり ドンパチやヤクで 生計を立てるなんて完全な時代遅れだ。 元の事務所のやり方を良しとしない 古参幹部連中もいるが 目に見える成果に 何も言えないでいる。 何より 元は景に心配をかけたくない。 それでなくても今まで辛い目にあっているのだ。 やっと締結し もういいか?と目だけで 高嶺に問うと 高嶺は苦笑し どうぞと事務所のドアを開けた。 まだ夕方だから景は店に戻っているかも 知れない。 仕事中はLINEも出来ない為 元から今日は連絡を入れていない。 急いで携帯を見るが 景からの連絡もない。 とりあえず今から店に行くと送り 龍の運転で景の喫茶店へと向かった。
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