4185人が本棚に入れています
本棚に追加
「いらっしゃい」 ケンは白い歯を見せながら
そう言った。
「景は?」
「景さんは?」
二人同時に尋ね合い 元は思わず固まる。
ケンもびっくりした様子で首を傾げた。
「え? 朝イチ電話あって 例の手紙の人に
会ってくるから 終わったらこっち出るって
言ってたのになかなか来ないからさ。
てっきり元さんと仲良く一緒で
サボってんなって思ってて」
「・・いや。今日は仕事で別行動だ。」
景はどこに行ったのだろう。
LINEの既読もつかない。
心臓の鼓動が速くなる。
とりあえずマンションに向かう。
「見つけたら連絡して!」
心配そうなケンに手を振り答え
元は車に飛び乗った。
辺りはすっかり夜になっていた。
マンションの景の部屋には灯りが灯っていない。
とりあえずエレベーターに乗り
急いで合鍵で部屋のドアを開ける。
真っ暗だ。いないのだろうか。
「景?」
大声で呼ぶが返事がない。
靴を脱ぎ捨て中に入りリビングの
電気をつける。
景がいた。
ガラステーブルの前に座り
顔を伏せている。
「景?」
もう一度元が声をかけると
景は泣き腫らした顔をゆっくりあげ
疲れたように笑った。
「・・・元・・おかえり」
元はいたたまれなくなり 景を急いで抱きしめる。
「大丈夫か?」
景はうんと頷き そろそろと元の背中に
手を這わす。
思わずもう一度しっかり抱きしめる。
「やっぱり一緒に行けば良かったですね」
景は首を振り 小さい声で大丈夫と言った。
最初のコメントを投稿しよう!