消印

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「もうすぐ着きますよ」 元はそう言いタバコをダッシュボードの 灰皿へ投げ入れた。 車は元のスポーツカーだ。 普段は黒塗りの高級車の後部座席に 座る元が今日はハンドルを握っている。 車の運転は好きらしく たまの休日に景のマンションや店に来る時は 決まってこの車でやってくる。 今日は髪を上げず 洗ったままの状態の 黒髪は艶々と輝き サングラスをかける元は ヤクザには見えず とてもカッコいい。 その大きな手で髪をかきあげる。 どことなく色気のある横顔に見惚れて 思わずじーっと見つめていると 元は急に苦笑し言った。 「そんなに見つめられると押し倒したくなります」 「・・??」 思わず顔を赤らめ下を向く景を 横目で見て 元はクスリと笑った。 「後でね。」 「・・・・・」 恋人になった元はたまにこうやって 景を揶揄う。 自分よりずっと余裕があり なんかちょっと悔しい。 景は少し頬を膨らませ ぷいっと窓外を見た。 元はまたクスクス笑っている。 「可愛いな」などと平気で言う。 仕事だ。 押し花の送り先の消印の場所へ 向かっている。 元は仕事を調整し・・・高嶺がしたんだろうな 休みを二日貰っていた。 仕事だとわかっていても ずっと元と一緒にいれるのは嬉しい。 いつも忙しい元との時間は 思うように取れない。 二人で丸二日も一緒なんて。。 仕事であっても内心ウキウキする。 元も嬉しそうだ。 景を見る瞳がいつもより甘い。 「景? もう機嫌直して」 元は前方を見たまま腕を伸ばして 景の髪をクシャクシャとかき混ぜる。 もうどっちが年上かわからない。 元来 雑なのでしっかり者の元には よく怒られていたが 今は それもほとんどなくなった。 しょうがねえなぁと笑っている。 なんか今まで自分が兄として元とどうやって 接していたかもわからなくなっている。 でも とても居心地がいい。 誰にも甘えた事の無い景を とことん甘えさせてくれる。 自分をこんなに素直に出せる相手は 他に誰もいない。 まだ景の頭をかき混ぜている 元をそっと上目遣いに見ると たまたまこちらを向いていた元が 目を瞬き 手を引っ込め少し顔を赤らめながら また前方を見た。 「今度その顔したら絶対押し倒す」 今 押し倒されたら事故る。 景は少し笑って元と同じように前方を見た。 車のボンネットが太陽の光を反射し キラキラと輝いていた。
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