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『あのエッチさせてくれませんか?』
男は唐突に言った。
いや、男にとっては素直な言葉だった。
小さい頃から母親に嘘をつくなと言われて育った男は真っ直ぐに生きていた。
男の名前は、皆星圭太。
圭太の頬が赤く腫れ上がった頃にはカウンターで1人だった。
やっとの思いでこぎつけたデートは、ものの30分で幕を閉じた。
カウンター越しにマスターが声をかける。
『圭太、そりゃないわ!』
ダンディを絵に描いたようなマスターは自慢の髭をさすりながら圭太に言った。
『何がダメだった?やっぱり言葉より行動で示した方が良かったかな?』
圭太の的外れな問いに、マスターはポリポリと頭を描きながら言葉を選んでいた。
『うーん。そうだね。まあ飲もう!』
マスターはキツめのジントニックを作って圭太の前に差し出した。
いつものお約束だった。
かれこれ何度目の失恋かマスターも覚えていなかった。
圭太は『何がダメなんだ~。』とジントニックを飲み干した。
目の充血をアルコールが誤魔化してくれた。
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