第1章

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圭太の母親は物心がつく頃から『嘘はダメ。』と口を酸っぱくして教えてきた。 小さい頃はよく褒められた。 『圭太は素直な良い子だね。』 親戚中のみんなが口を揃えて言っていた。 母親も集まりがあるたびに圭太を連れ出し、矢面に立たせた。 圭太が褒められるたびに、自分を重ね合わせるようにご満悦の表情を浮かべていた。 自慢の息子だった。 そんな自慢の息子に陰りが出はじめたのが小学校高学年になった頃だった。 普通ならいくら『嘘はダメ』と言われても、嘘も方便と言う諺があるくらいだから世の中には、ついて良い嘘も存在している。 小学校低学年の頃は、笑って済まされた事も、小学校高学年になると笑えなくなってきた。 その片鱗を見せたのが、小学校高学年の時に行われた家庭訪問だった。 あの日は、ジッとしていても汗が流れるほど暑い日だった。 担任の先生が家に来て開口一番に『暑いですね~』と言うほどだった。 先生が席に着くなり圭太はコップにお茶を入れ先生の前に差し出した。 『偉いねー!お家ではお利口さんなのかな~。』 その言葉は、学校では良い子ではないと言っているのと同じだった。 『お母さんがお茶でも入れてポイント稼げって言うから。』 圭太の言葉に空気が涼んだ。 先生は咳払いを1つして生ぬるいお茶を口に運んだ。
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