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Ⅰ
春雷が町を震わせている。
薄曇りの空が早春の陽射しをさえぎって、町は冷え冷えとした空気の底に沈んでいた。
電線にツバメがとまっている。今年初めて見るツバメは、町を覆う重苦しいとどろきに、本能的な危険を感じるのか、じっと動かず、何かの気配を探っているようだ。
自宅のパソコンに、件名も本文もないメールが届いていた。
タイトルのない画像が添付されているだけだ。送り主のアドレスも、知らないものだった。ドメインをみると、どうやら個人の携帯電話から送ってきたらしい。
送信先を間違えたのか。それとも迷惑メールだろうか。画像を見ようと開いたらウィルスに感染してしまうという……このまま削除したほうが……
そんな常識的な考えにうなずかない自分がいる。
私にはわかっていた。
白峰先生が送ってきた……
先生は、ほんとうに、向こう側へ行ったのだ。そこから、画像を送ってこられたのだ。
そう気づいて、椅子に腰掛けていた私は、ざわざわと嫌ぁな胸騒ぎを覚えて、背もたれにギィと体を押しつけた。
ウィルスにパソコンが侵されるよりももっとずっと恐ろしい予感にとらわれ、それでもそのファイルを開いてみなければおさまらない気持ちにうごかされた。
ディスプレイからバケモノが飛び出してこないかと恐れるように顔を遠ざけて、クリックする。
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