血を吸う谷 あるいは童子伯爵の闇の聖母

5/21
前へ
/21ページ
次へ
 それで、先生は?  件名や本文を書く余裕もなく、撮った画像を急いで送らねばならなかったとすると。  何があったのか。いったい先生は今どうしていらっしゃるのだろう。  不安で胃が冷たく重くなった。  白峰先生ご無事ですかと返信を打とうとして……いや、待て、これが果たして先生からのメールなのか、確信が持てない。向こう側で、先生の携帯電話は、誰が手にしているのか。ひょっとすると今頃はもう先生は……  黒い怯えが吐き気となって喉へ込みあげてくる。  私は背後の書棚やドアをそっとうかがいみた。  自分の部屋にいても安心できない。  三十年も前の影をいまだにひきずっている、いや、そんななまやさしい妄想ではなく、これは実害のあるおぞましい現実だ。  影は三十年かけてこちら側を侵食し、とうとう先生をひきずりこみ、闇に呑み込んでしまったのではなかろうか……
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加