血を吸う谷 あるいは童子伯爵の闇の聖母

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 白峰先生は、旅行中に生徒間で何かトラブルがあったのかと疑問に思っているのだろう。仲たがいかイジメがあって、不登校になってしまったのかもしれない、と。  その高校が例年使う高原ホテルは、その年、スキー競技の大会が開催される時期に重なったせいで、選手や大会関係者の宿舎に取られてしまった。  各クラスは、旅行業者がかろうじて見つけてきた、民宿やペンションに分宿して、送迎バスでゲレンデまで通ったが、宿舎と使用できるゲレンデとが離れているうえに、宿舎の設備も悪く、教員にも生徒にも不評だった。  白峰クラスの宿舎は、他の宿舎から更に遠い、高原エリアの端の深い雪のなかにぽつんと建っている。  赤い柱で玄関の張り出し屋根を支えている、安っぽい二階建てのペンションだった。 「野々村は二階端の三人部屋でしたね」  私はそう思い出した。  生徒たちは四人前後に分かれてひと部屋ずつに泊まった。事前の部屋割り作業はあの年頃の生徒たちには重要な問題だった。仲良しグループで同じ部屋になれるかどうかが旅行の楽しさを決めるポイントといえるからだ。休み時間に一人ぽつんと席に座っている子は、部屋割りの際もどのグループにも入れてもらえず、けっきょくそんな子ばかりが寄せ集めのようにひと部屋に入ったのだが、野々村夕子もそうだった。  白峰先生は、同室だった二人の女生徒の作文を読んだ。  あれから三十年経った今となっては詳しくは覚えていないが、一人の作文はありきたりな内容だった。スキーは初めてで怖かったですが少し滑れるようになると楽しかったです、また行ってみたいです、というような。  もう一人のほうは、奇妙な作文だった。
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