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「わかった、わかったから!」
少女は鼻を鳴らして足をどけた。
「誤解なんだ」
俺はわき腹を押さえて事情を話した。
「……すまなかった」
美少女は、そっぽを向いて言った。
「分かってくれればいいよ。俺は上原春。あんたは?」
「なぜ?」
「せっかく知り合ったんだし、俺、今年からこの高校に通うんだよ。先輩か?」
まあ、下心丸出しだったろうよ。
「キツメだ」
「キツメ……さん? 名字? 名前?」
「どっちでもいい」
俺は戸惑ったが、名前を教えてもらっただけで満足だった。楽しい高校生活になりそうだ。桜の上の空がやけに青かった。
「じゃあさ、キツメ――あれ?」
目をもどしたとき、もう桜色に輝く髪の美少女はいなくなっていた。
毎日、キツメに会いに行った。なぜかいつも桜の木の下にいた。そして、初めて会ってから1週間経った日、俺は告白した。
「つき合うとは?」
それが返答だった。
「恋人になってくれってことだ」
「無理だ。ここは寒い。来年も現れるか、わからんよ」
キツメは随分寒がりで、両手で体を抱いては「寒いな」と呟いていた。だが、それとこれとは話が違うだろう。へたな誤魔化し方だ。
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