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俺は諦めるつもりはなかった。でも、それっきり、キツメは消えてしまった。桜は、すっかり散っていた。
◆◆◆
あれから1年、桜の木の下に、やはりいた。
「よう、久しぶり」
「なんだ、春か」
「覚えててくれたんだな」
「両親に感謝しろ。名前が良い」
キツメは相変わらず両手で体を抱いている。
「まだ寒いのか」
「ん? ああ、今年は一層な」
「お前は俺の告白を断った。覚えてるか?」
「答えは変わらんよ。わたしはもうここに居られない」
「覚悟しろ、お前の正体はとっくに分かっている」
屈強な男たちが校舎を回ってやってきた。手には太い縄とゴザと、そして鉈を持っている。
「何をするつもりだ?」
声をふるわせるキツメに、俺はにやりと笑って見せた。
「おう兄ちゃん、この桜だな」
髭もじゃの棟梁が言った。
「はい、やっちゃって下さい!」
「まかせとけ!」
男たちが桜の木を取り囲む。キツメは体を抱いて後ずさった。
「貴様、振られて逆恨みなぞ、男の風上にもおけんぞ!」
男たちは桜の幹にゴザを巻き、太い縄で、ぐいぐいと締め上げた。
「やめい! やめんか!」
男たちの鉈が、縄を一撃で断つ。
「ふっふっふっ、ははははは!」
俺は春の空に笑った。
作業は終わり、桜の木はゴザと縄で緊縛された。
「じゃあな、兄ちゃん」
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