0人が本棚に入れています
本棚に追加
「ご存じかと思いますが、この大通りには開場直後の5分ほど、3日目名物『男津波』がやってきます。席に座って机を守って下さい。もし『男津波』に巻き込まれた場合、お助けすることはできません。自分の身は自分で守って下さい」
男津波――こんなに不吉な単語は久しぶりに聞いた。
10時会場。一斉に沸き上がった拍手が、高い天井にさざ波のように響き渡る。同時にやってくる男津波を、両手を広げたスタッフさん達が先導する。
「おいおいスタッフ! 速い! 速すぎるよ!」
「みんな落ち着いて! 倒れる人、出るよ!」
「はぁ……はぁ……アツい~!」
互いに声を掛け合いながら、地鳴りのような足音と共に、おかしなテンションの男たち(たまに女たち)が、塊となって通り過ぎていく。すごい光景ではあったが、事件は起きずに終了し、胸をなでおろした。
彼らは、これまで何時間並んだのだろうか。そして、これから何時間並ぶのだろうか。みな、それぞれに目当ての創作物を求めているのだ。
参加者たちは、ブースの前を足早に通り過ぎて行く。無料配布本は50部しか刷ってないし、早々に無くなっちゃうかな、と思っていたが、まるっきり誰も持っていかない。次のように書いてアピールしているのに。
~無料配布~
「佐藤いふみの掌編小説」
行列のお供にどうぞ
最初のコメントを投稿しよう!