入口

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蝉の鳴き声というなんとも迷惑な騒音を目覚ましに起床し、 セオリー通り身支度を済ませて会社に向かう。 駅までの最短ルート、道の左側を走り抜けるのが私の日常。 その日も日常通り。いつも通り抜ける左側で井戸端会議が行われていたこと以外は。 朝からご苦労なことだ。仕方がないからいつもの左側はおば様達に譲って、逆側へ移動した。 太陽の光降り注ぐアスファルトから離脱して、右側の日陰ルートへ。 いつもは気がつかなかったけど、日陰って結構涼しいな。 へぇ、風鈴の音がする。 よく聞いてみると蝉もいろんな種類がいるんだ。 何かの実がなってる。うわ、よく見ると落ちてきそうじゃん。 この家の人、私と同じ自転車を持ってる。良さをわかる人がこんな近くにいたなんて。 ちょっとした常道からの逸脱は、いつも気がつかなかった私の日常の側面を教えてくれた。 退屈から抜け出すのは案外難しいことではないようだ。 少し上機嫌で自転車を走らせていると、大きな家の前を通った。 でっかい庭だなぁ、なんて思いながら眺めていると 空っぽの青色の植木鉢が妙に目についた。 統一された木々の緑と、色とりどりの花の中に存在する自然の中に存在する人工の青は まるで都心の人混みの中にポツンと生える木のように私の心を奪う。 気づくと私は自転車を止め、吸い寄せられるようにその植木鉢に触れていた。
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