第二部 タオルミーナ・ディヴェルティメント プロローグ

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第二部 タオルミーナ・ディヴェルティメント プロローグ

アメリカ合衆国、ニューヨーク市。 アメリカの、否、世界金融の中枢、マンハッタン。 ミッドタウンにあるロックフェラーセンター前に巨大なもみの木が設置され、世界的に有名なクリスマスルミネーションの飾り付けが、点灯式に向けて佳境に入ろうとする時期。 休日を終え、心機一転の心境で仕事を開始する、月曜日の朝。 銀行や証券会社など、それぞれの仕事場へと向かう金融マン達を巧みに避けながら、ブリーフケースを小脇に挟んだ日本人青年が、慌てた様子で天下のウォールストリートを全力疾走していた。 事の発端は、20分前に遡る。 黒羽蓮は、出勤前に会社近くのカフェスタンドで、砂糖抜きのロイヤルミルクティを買った。 淹れたてで熱々のミルクティは、会社のプライベートオフィスの椅子に腰を落ち着ける頃には、猫舌の自分には、ちょうど飲み頃の温度になっているだろう。 蓮がアメリカに赴任して、そろそろひと月が過ぎようとしていた。 季節は間もなく、1年の締めくくりの月となる。 イギリスで飲んでいたものと同じクオリティの茶葉と淹れ方で提供するカフェスタンドのミルクティは、ニューヨークに赴任してからの蓮のお気に入りだ。     
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