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「昼食まで付き合って頂いて、ほんとうにすみません」
歩いて五分ほどの所にある教職員用に作られたカフェに入ると、中は閑散としていて、三人の話を聞かれる心配はなかった。
「いや、俺たちもだいたいこの時間に昼飯だから」
啓介の隣に座った勝己はさりげなく細々とした世話をする。
数年前から憲二が勤める大学の付属病院へ、偶然にも勝己が整形外科医として配属になった。
この病院は憲二の仕事場である工学部の研究棟とは、歩いて10分もない距離にある。
いつの頃からかこのカフェで一緒に昼食を摂ることが多くなった。
「そういえば、病院食があるんじゃないのか?」
そもそも頭に包帯を巻いているような状態で、出歩いて良いものなのか。
ふと、疑問を口にすると、二人は顔を見合わせ苦笑した。
「そうなんですけど・・・。ちょっと、居づらくて・・・」
眉をひそめると、勝己が説明を始めた。
「啓介君は一週間前に交通事故にあって、最寄りの病院で処置した後にこちらの方に転送されてきたんだけど、その時に有三さんが心配のあまり駆けつけてしまって、大騒ぎになったんだよ」
「大騒ぎ?」
ますますわけがわからない。
「最初は、ただの片桐啓介というどこにでもいる大学生が、うっかり豪雨のなか車にひき逃げされたって言う、どこにでもある話だったんですが、うちの祖父が出張ったものだから、御曹司扱いになりまして・・・。主に、看護婦に・・・」
「ああ、なるほど・・・」
ようやく話が見えてきた。
「最初、俺は祖父の要求する特別扱いを断固拒否して一般病棟の相部屋に入らせて貰ったんですが・・・。その時から看護婦の出入りが半端じゃなくなって・・・」
ピンと来て、口ごもる啓介の後を引き継ぐ。
「夜這い、かけられたな?」
「はい。それも一晩で複数・・・」
「まるで刺客だな」
「ええ、その通りです」
もはや、こうなると笑い話では済まなくなる。
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