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「いつもならそういうのは上手くかわせる方なんですが、俺も事故の時に頭打ってるんでさすがに身体が辛くて、一晩で音を上げました」
「それはそうだろう」
あわよくば、御曹司から甘い汁を吸おうというわけか。
「容態が悪化したらどう責任を取るつもりだったんだろうな、そいつらは」
だから女は嫌いだと心の中で毒づくと、勝己が困った顔をした。
「いや、看護師みんながそうだと思わないでくれよ。後で調べたら、人事が出来心でつい入れてしまった好みの若い子たちがそういうことをやらかしていたみたいだから・・・」
スタッフを悪く言いたくない彼らしい発言だ。
「うちはけっこう医療現場としてレベルが高い方で、その辺は厳しい筈らしいんだが・・・。春が近いせいか、こう、みんな疲れていて、魔が差したのか・・・」
「長田一族と言えば、政財界共にVIPだからな。そりゃ、食いつきたくもなるか」
メニューを一瞥して三人分のランチの注文をしながら、憲二は問う。
「で、怒鳴り込んだのは長田有三氏?」
「いえ、祖母です。怒鳴り込むと言うより、冷ややかに・・・」
「想像つくな」
長田有三の妻の富貴子は、夫をはるかにしのぐゴッドマザーだと囁かれている。
彼女の一存で病院の人事全てが刷新されてもおかしくない。
「すぐに特別室へ移されて、接触するのはベテラン看護師、もしくは男性スタッフということになり、さらに秘書や警備が常時監視することになったのですが、これがまた肩が凝るというか何というか・・・。俺、本当にただの大学生ですから」
深々とため息をつくその姿にいささか同情する。
「普通の大学生?長田の孫なのに?」
「はい。福岡から普通に受験して、アパート住まいでバイト三昧です。こちらの知人は誰も母方の家の事は知りません。俺は、長田の世話になるつもりはないんで」
「へえ・・・」
憲二は驚きを隠せなかった。
自分は真神の名前と資産を今も良いように使っている。
おそらく他の家の御曹司達も似たり寄ったりだろう。
名家に生まれたからには、その権利を享受するのは当たり前のことだ。
しかし、啓介は悔しげに言葉を続ける。
「なのに、一年やそこらでこれかよって、自分でも情けなくなります。独立したつもりが結局、長田の保護なしでは何も出来ないんですから」
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