9.

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 しかし、初夏の日が照りつける思い出のあの日、少年は彼の前に現れた。夜毎、少年の部屋から聞こえる魘されているような声を聞き、時々すすり泣くような気配を感じ、彼が大事に持ち歩く拳銃を見るたびに、小さな罪悪感がじくじくと、彼に故郷を思い出させた。  キッドを受け入れたのは、その罪悪感からかもしれないと自分を責めたこともある。本当はただ友人になっただけであったのに、生真面目なマーロはそれに理由をつけたがり、過去の後悔に答えを求めたのであった。  カレンとの婚約の条件には、夢だった店を手放す可能性が含まれていた。つまり、日々の時間を、彼女の父親の会社の手伝いに当てることである。マーロはひとり悩んだ末に決断した。彼女を自分と父親との間に板挟みにするのが心苦しくて、彼はひとりだけで考えて、ひとりだけで決めたのであった。マーロは更に追い詰められた。  苦しかった。だが、将来のためだと、これにも彼は理由をつけた。店を持つ夢は一度叶った、数年間だが楽しくやった、と、己に言い訳をしていた。  アレックを紹介されたとき、キッドの顔が浮かんだ。あの澄んだ瞳の少年は、この男を見れば何を言うか、と思った。鉄道工事を妨害すると聞かされたときには、そこに何の意味があるのかと悩んだ。しかし、彼が何を言おうと、何を思おうと、既に婚約者の父親と友人の仇敵とは止まらなかった。     
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