9.

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 今日は天気がいい。昼はまた暑くなるだろう。そんなことを、マーロとまだ話していたかった。本当は内緒なんだけれどラングがウェディングソングを考えているんだよ。カレンはドレスを新調するのかって、町中のみんなが楽しみにしているんだよ。子どもは男の子と女の子どっちだろう。名前はもう考えた?そんな話を、マーロとしたかった。話したいことが、本当は、もうひと夏あっても足りないぐらいに山積みであった。  マーロは静かにキッドの視線を受け止めて「結婚式か」と呟いた。 「ここに招待状がある」 マーロがハンサムな笑顔で胸ポケットから紙片を取り出した。それを指で挟み、キッドの気を惹くようにひらひらと振りながら、壁際の事務机の上に置いた。 「役人が躍起になって探しているヤクザ者の隠れ家、主だったやつの姓名、武器弾薬の隠し場所、ゲリラ活動をしてるヤクザ連中と会社のつながりを示す書類や裏取引の帳簿が入った金庫番号、その他、必要なことはぜんぶ書いておいた」 さすがにキッドが動揺した。薄い唇を震わせて何か言おうとするキッドを拒むように、マーロが机の引き出しから取り出した拳銃を構える。  キッドの足が止まる。目を見開いてマーロを見た。 「銃を抜け、キッド。お前の銃で決着をつけてほしい」 考え続けたマーロが出した結論であった。  彼らの関係はキッドの銃で始まった。終わらせるならば、やはりキッドの銃であるべきだとマーロは願った。キッドはラングよりも早く来てくれるはずだと信頼して、自分のすべてを懸けて男はここで待っていたのである。     
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