9.

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「キッド、大丈夫だ、落ち着いて……。もう助からない」 マーロが微笑みを絶やさずに言うと、キッドが弾かれたように怒鳴る。 「マーロの冗談はいつもつまらないから、やめろって言っただろ!」 マーロがじっとキッドの瞳を見つめた。  ヘーゼルグリーンの瞳が涙に濡れて、透き通った水面を覗いているように美しく見えた。その底に故郷の家が沈んでいるように錯覚したが、あの水は、こんなに清らかではなかったろう。  この瞳に故郷があるとするならば、それは夏の朝露のきらめきであった。朝陽を浴びた髪が黄金色に輝いて、幻のようだと思う。ただひたすらに、きれいであった。  マーロはキッドの手を握っていた掌をゆっくりと持ち上げて、キッドの涙を拭うようにその頬へ、そっと押し当てた。生ぬるい血液の温度にキッドの瞳がさらに大きく開かれて、駄々をこねる子どものようにひたすらに涙を零し続ける。 「お前に会えて、本当に、よかった」 「……いやだよ、マーロ。もうすぐラングが来るんだ。ラングが、きっとブルースも連れてくる。それまで頑張れよ。きっと助かるから、二人が助けてくれるから」 「あぁ……ラングに伝えてくれ。マーロは愛する友の銃で、満足しながら、二人の親友に感謝しながら、死んでいったと」     
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