9.

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それだけ言って、去っていった。ラングはその背中に深く頭を下げ、カレンの死体を一瞥し、足を引きずるようにして、また倉庫の中へ向き直った。  マーロのとなりで、キッドが肩を落として座り込んでいる。朝陽が二人を照らしていた。 「……ごめんなさい」 ポソリ、キッドが呟いた。  たまらなくなって、ラングはキッドに駆け寄った。キッドの肩をつかみ、どちらのものかわからない血と、涙で濡れた顔を自分に押し付けるように、その頭を抱き寄せた。キッドがラングの肩に額をこすりつけて、小さく呻き声を漏らす。 「いいんだ。これで良かったんだ、キッド」 ラングの目からも涙が一筋、流れ落ちた。強く、強く、ラングの腕がキッドの背を抱きしめた。  キッドは泣いた。ひたすらに、波の音にも汽笛の音にも負けぬほど声を上げて泣いた。その左手には未だ銃を握りしめたままであった。  何も知らない海鳥たちが、騒いでいる。よく晴れた夏の日であった。
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