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 一階で、ラングは珍しく新聞を読んでいた。  隣村の鉄道工事は順調らしい。ゲリラ活動をして抵抗していた一団は匿名の通報により一網打尽にされ、彼らと秘密裏に取引していた船会社の責任者及び一連の関係者はすべて逮捕されたそうである。  一部の者の証言により、ハンとロータスとの抗争についても近く裁判がやり直され、"牛殺し"のロブについてもかなり減刑される見通しだと新聞は宣っている。既に絞首刑に処された男に減刑も何もあったものではなかろうに、世間はすっかりロブの悪評を忘れ去り、代わりに新聞はアレックという男の悪口を散々に言い立てた。既にそのアレックも死んでいたが、そんなことは関係ないらしい。 「まったく、曖昧な世の中だ」 新聞をテーブルに放り投げてラングはごちた。入り口から夏の朝陽が爽やかに室内を照らしている。外では人々が忙し気に日常を謳歌していた。  港の倉庫で死んだ若いカップルについては、どこの新聞も書いていない。だが、海の見える丘にひっそりと建てられた新しい墓に誰が葬られているのかを、町民たちは知っているようであった。 「出たよ、ラングの"曖昧"評論」     
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