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階段上から聞こえた笑いを含んだ声に、ラングが振り向いた。
「よお、キッド。支度できたか?」
「支度も何も、荷物なんて全然ないからね」
キッドは最低限の荷物の入った袋をひとつ持ったきりで、あとは腰に拳銃が一丁だけの軽装であった。頭には季節外れの山高帽を被っている。ラングはその姿を満足げに見上げた。
「うん、うん。いい、いい。若き旅立ちは、余計な物はすべて置いていくのが正解だ」
「前から思っていたんだけれど、ラングのその変な理想ってなんの影響なの?」
「変な、とは、なんだ。……それより、例の本持ったか?」
「持ったよ。あれは余計な物に入らないみたいだから」
「当たり前だ!俺からの心をこめた贈り物だぞ!」
「はいはい」
てきとうに返事をしながら、キッドが階段を下りてくる。一段一段、感触を確かめるように丁寧におりているようであった。
「あぁ、そうだ」
ラングが先程投げた新聞を拾って、キッドの顔の横に突き出す。
「読むか?」
キッドは、横目で見出しだけを見た。唇を噛むようにそっと笑って首を横に振る。ラングも微笑んで新聞を引っ込めた。
「さて、と。それじゃ、そろそろ行くよ」
気軽な調子で、キッドは荷物を担ぎなおした。その姿にラングも気負わずに声をかける。
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