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 今は二人、地元を離れたこの港町で小さな飯屋をやっている。料理はほとんどマーロが作る。ラングは接客担当で、この町に辿り着くまでにあちこちを巡った思い出話と、その経験を活かした料理と音楽は両方なかなか評判がいい。特に夜は、仕事を終えた地元客で賑わう憩いの場として、いつも遅くまで笑い声の絶えない店であった。  朝は二人か、あるいはマーロだけで市に行く。昼の営業を終えると、夜の仕込みで忙しいマーロのために足りない物を買いに行ったり、となりの酒屋の荷物を配達したり、雑用や副業はラングの役目である。この時も食材をドッサリ詰めた買い物袋を抱えて帰るところであった。  来る夏の盛りを占うような照りつける太陽が、いやに眩しい日であった。真っ青な空に、たっぷりの白絵具を筆で乗せていったように厚みのある雲がもくもくと湧き出ている。  額や首筋にじっとりと汗を滲ませながら、木陰で休もうとしたラングの傍を、何故か男たちが急ぎ足で通り過ぎていった。不思議に思って首を回せば、家の窓や玄関から心配そうに顔をのぞかせている女たちに、眉をひそめて囁きあっている者もいる。  その全員が、ラングたちの店の方を見ている。こちらに気が付いて気の毒そうな視線を投げる年増もいた。  いよいよ妙だと思って、見れば、彼らの店の前で二人の男が空気を緊張させて対峙しているではないか。 「嘘だろ!?決闘!?」 ラングは思わず叫んだ。     
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