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 男の矜持を賭けた勝負など、馬鹿げているのはわかっている。それでも、ラングは決闘を見るのが好きであったし、あの刹那の一瞬に煌く技の冴えを見ることは、夏の夜の流星群より目を凝らす甲斐があるものだと思っていた。そして、そういう男に出会うことは、自分の音楽活動にも大いに刺激になるのだと、これは非難がましい目つきで決闘を否定する友人たちへの言い訳であったのだけれども……。  ラングは満杯の紙袋を煩わしく思いながらも、我が店へと足を急がせた。  こんな夏空の下で睨み合っている二人はどんな顔をしているだろうか。どんな銃を持っていて、どんな技を見せるのか、単純に楽しみな野次馬根性がまず顔を出した。  一方で、勝負をしている二人の内うっかりどちらか、最悪両方が死んでしまわないか心配も横から覗き込んでくる。店の前で人死にがあって、偉そうな顔をした役人が調べに来たりして、客足が遠のいたらどうしてくれよう。さすがのラングも、その辺りは不安であった。  せめぎあう気持ちに共鳴してか紙袋からレモンがひとつ転がり落ちたが、ラングは気付かない。日差しに焼かれた土の上に、鮮やかな黄色がコロリとひとつ、取り残された。 「ロズ!」 見物の人々の中に、何かと世話になっている、となりの酒店の女房のロズを見つけて、ラングは声をかけた。本当は手を挙げたかったのだが、何しろ紙袋がズッシリとしていて両手が塞がっている。 「ラング!厄介なことになったねぇ」 「まったくだ。でもまぁ、こうなっちゃ見届けてやんないと」 後半に好奇心がワクワクとにじみ出ていたのだろう。ロズは思い切り呆れ顔で首を振った。     
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