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外見を裏切らない、酒でガラガラにしゃがれた声である。ベッと噛み煙草を吐き出した髭もじゃに、見物人の多くが眉をひそめた。 「お前だよ!そこのでけぇ紙袋抱えた、赤い頭のしまらねぇ顔つきのあんちゃんよぉ!」 乱暴に言われたラングは、確かにしまりのない自分の顔を紙袋越しに指さした。男はうん、と、粗雑に頷いて、これもラングを指さして叫んだ。 「見物の野郎ども!このだらしのねぇ顔の、だからどっちに贔屓もなさそうな、この軟弱野郎に決闘の証人を俺は頼むぜ!」 「だらしのない軟弱野郎……」 ひどい言われようである。黙っていれば自分だって、マーロには及ばないまでもそれなりだと日頃鏡の前で思っているラングであったが、ここで言い返しても決闘が乱闘になるだけなので、憮然として黙った。そのぐらいの分別はラングにもある。  髭もじゃの男の方では、ラングのこの沈黙を肯定と受け止めたらしい。乱暴に顎をしゃくって、少年にも形ばかりの確認をした。 「てめぇもそれで文句はねぇだろう」 脅すような口調であったが、少年は体格の割には落ち着いた様子で、 「どうぞ」 と、一言、答えただけであった。男はひとつ、フン、と鼻を鳴らした。     
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