青き時間は長くも短い

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 それで大人になろうと努力することが大人なら、僕がしていることはその入口だ。十年の苦労が、きっとその後の生き方を示してくれる。  まだ一年も経っていないけれど、僕は今まさに生き方を見つけた。大人になろうと努力することだ。それの具体的な内容は、これからの旅で見つけていこう。だって、まだまだ僕は身も心も青い。甘味のない未熟な果実なのだから、味も色もこれからだ。林檎が燃える色へ染まるように。 「なんだか、色々わかった気がします」 「うん? それは良かったよ、わからないものは気持ち悪いからね」 「人間はわからないものを過小評価するとも言うものね」 「はい、一歩大人に近づいたみたいです」  この後も楽しい会話は終わらず、夜は更けてゆく。そしてそのお話し会は、クロの一声でお開きになった。こうしてみんなが眠りにつき、一日が終わる。  翌朝、僕は朝食まで頂いて、出発の時がやってきた。さようならと僕が言うと、二人はまた会おうと手を振る。それで、家を出ようとしたらシロが僕を呼び止めた。 「友好の証よ」  そう言って彼女は唐辛子をくれた。 「ありがとうございます!」  この後、僕は林檎やイチゴといくつかの食べ物を買って、この国を去った。ここでは大人へと大きな一歩を踏み出せた。それでも、旅はまだまだ続く。まだ十分の一も目的は達成できていない。  次の国はホウレンソウが特産品だ。気合いを入れて頑張ろう。気持ちを高めるために、唐辛子を一本かじってみた。我慢できないほどに刺激的で、とっても大人の味がした。
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