青き時間は長くも短い

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 草木の生えるこの場所は、どの国の色にも染まっていない。すべての国の色が共生している。祖国の面影ももちろんあり安心感はちゃんとある。だけど他国には、その国の色しかない。それに言葉も通じないらしい。  次第に不安が募っていく。だけど、見たことのない世界に胸はときめく。  異国の言葉が響くなか、僕だけが青い異邦人だ。燃えるような色は僕を威圧する。体を異国に染められそうになりながら、行く当てもなく街をさまよう。そこにはきっと店が並んでいる。そこは林檎、トマト、サクランボにイチゴ、特産の唐辛子でいっぱいに違いない。  青空に隣国の景色を思い受かべて僕は進む。最初で最後の林檎色の国だ。大人は国から出ない。若いうちに、外国を楽しもう。  大人は国から出ないと思ったけど、そういえば例外もある。思い出したのは林檎色のお姉さんだった。彼女は僕が小さいときに、片言で隣の国のことを教えてくれた。言葉が通じないのも、特産品もお姉さんの知恵だ。  そういえば、あの人は何歳なのだろう。色が違うから見た目では判断がつかない。濃くくすんでいた気もするけど、元の色を知らないから、いくら考えたってわからない。ただ彼女はとっても落ち着いていて、理想的な大人だった。  しかし彼女は祖国を棄てた亡命者には変わりない。亡命者には多くの国が厳しい態度をとる。僕たちの国は他みたいに、追い出したり酷いことをすることはないけど、言葉が通じない体の色が違う人間が、青い国民と同等の生活を送ることは難しい。  でも彼女は美しかったから生きてこれた。人は自分と違う者は、不気味で恐ろしいと思うが、同時に美しく魅力的だとも考える。彼女は色こそ違えど、端整な顔立ちに優雅な振る舞いと、そこらの青い女性より魅力的だった。  そんな彼女の仕事は街かどでダンスをしている。近くのコインを集めるバケツはいつもいっぱいだ。踊りはとても情熱的で、心の奥底に眠る何かが呼び覚まされるような気がした。
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