青き時間は長くも短い

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 さて、それで僕は、これから彼女と同じような気持ちを味わうことになる。僕たちの国の伝統は、他の八国も知っている。お父さんの話では、青い若者に対して、だいたいみんな優しいらしい。それでも孤独感は消えない。まわりは唐辛子色だらけだ。そして僕は異質な世界に一人きりなのである。死ぬことはなくても、死ぬほどに恐ろしい。  だからこその通過儀礼なのかもしれない。恐怖や死の疑似体験を通して、見識を広め子供の自分を殺すのである。それで魂が大人になれる。きっとそうに違いない。だから僕はオレンジ色の空を眺めつつ、隣の国へ歩き続ける。到着するのは、今日の月が再び円い大人に戻る夜だ。  こうして僕は夜を迎える。  空は大群青様と同じ濃い青だった。色とりどりの星が光って、グラデーションをつくりだす。僕は草原に寝そべって「ナガレボシ」を探している。お腹もすいたし、草を口に運びつつ、半信半疑で星たちを睨みつけた。空の星はたまに流れるらしい。そうお姉さんが教えてくれた。  だけど、その日は見つからなかった。身も心も温かくなって、世界が真っ暗になったり、戻ってきたりを繰り返した。目をこすって気合いを入れる。それでも睡魔は消えてくれない。世の中、気合いや気持ちではどうにもならないこともある。そこにエネルギーを使うのはもったいない。僕は素直に目を閉じて、明日の旅路を夢見た。  出発からいくつの夜を過ごしただろう。念願の流れ星も三回ほど見た。それで今晩は満月の夜だ。月が照らす草原は、土と青のにおいがする。そういえば、誰が草のにおいを青臭いとしたのか。草の色は僕たちと違う。まるで僕たちが草くさいみたいじゃないか。実際、他国では僕たちが青臭いという冗談が流行っているらしい。それは酷い偏見だ。
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