青き時間は長くも短い

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 思っていた以上の孤独だ。歩けど歩けど、果ては見えない。大群青様色の星空と、深い唐辛子色の街があるだけだ。まわりが青くないのはまだ我慢できる。でも、人がいないのは悲しい。だって久しぶりに人と触れ合えるのだ。門番の二人だけでは満たされない感情が、僕を支配している。  足に痺れるような痛みを感じつつ、冷静になって考えた。街に人がいないのは当然だ。今は夜である。この時間に外で騒ぐ人間は、僕たちの国でもほとんどいなかった。  こうしている間にも月は沈んでゆく。旅に慣れても、疲労はたまる。早く宿を探して今日は休みたい。十分な睡眠と休息が明日の活力を生み出してくれるのだ。明日、特産品を手に入れて、少しだけ国を楽しんだら、次の国へ向かわなくてはいけない。そのための元気を養うためにも、どこが宿かと唐辛子色の壁を睨みつける。でも、その建物が何なのか示す標も、人の気配もない。  もしかすると、今日も大地に身を横たえることになるかもしれない。ただ、街の地面は林檎色のレンガが敷きつめられている。こんな硬い場所では寝られない。眠れても疲れがとれなさそうだ。  悲しくもないのに、涙がこぼれそうになる。体は疲れているのに、僕の力では何もできない。僕は一人だと何もできないのか。それが悔しくて悔しくてたまらない。それでも、意地になって歩き続けた。僕にできることはそれだけである。  レンガに足をつける度、骨に響いた衝撃が脳の芯まで震わせた。脳は震えるときに、僕の心をあたりに散らす。するとすべてがどうでもよくなった。疲労も僕が置かれた状況も、抜けた魂から見た客観的な光景になる。それはもはや小説だ。直接自分とは関係ない、創られた世界だ。  僕は魂を消耗しながら、ふらつきさまよい続けた。 「やあ坊や、こんなところで何をしているんだい」
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