青き時間は長くも短い

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青き時間は長くも短い

 僕の国はすべてが青い。大人も子供も、服から肌に髪の毛の先まで一色である。それも生まれる前からずっとだ。  僕は母なる青空の欠片から生まれた。数千年生きている大群青様が、空から欠片を神器の鏡ですくい取る。それを人々はフラスコに入れ、一日一回水を注いだ。すると三日でサファイアの結晶になって、十八日後には人型になる。だいたい二十三日目にフラスコとは、さようならする。ここから僕たちは大人になってゆく。  僕も今年で八十歳だ。ついに大人の仲間入りとなる。だけど、それは長い苦しみの始まりを示していた。もう僕は身体がくすんでいくだけなのだ。輝きを失い、鮮やかさを失い、ただ濃く深くなってしまう。四百年の人生で、あと約三百二十年も失われることと向き合わなくてはいけない。その決起として、心が子供から大人になるための通過儀礼が行われる。我が家はその準備をしていた。  お父さんは、ナイフを研ぐ。ハルシオン鉱石製の業物だ。お母さんは、僕の服をミシンで縫う。この国の特産品のインディゴで染めたローブとズボンだ。僕はこれから旅に出なくてはいけない。旅に出て周辺の八国から特産品を持ち帰るのだ。帰ってくるのは大体十年後になる。だから、両親は子供の旅の成功を祈って、旅支度をしっかり整える。僕も期待に応えるため、様々な色を知って帰ってこないといけない。  それで今日はお祝いだ。旅の成功を祈り、祖父母も呼んで食事を楽しむのだ。  食事会は母父両方の祖父の歌から始まった。青空と大地に感謝する祝いの席には欠かせない曲だ。その次に祖母たちによる踊りが始まる。他の四人が楽器を弾きつつ陽気に歌い、二人はリズムに合わせて胸と腰を振る。群青色の震える胸は、遠い祖先の名残らしい。こうして太古に想いを馳せて、通過儀礼は幕を開ける。
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