第一章 地上から聞こえる音色をいつも独りで聴いている

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今日も独りだけの空を飛んでいる。 地上では、動物たちが生き生きと暮らし、日々を楽しんでいる。 ある動物が名前を呼べば、呼ばれたほうは振り向く。 子供達の喧嘩の仲裁に入る母熊も居れば、獲物を捕らえる猫も居る。 群れで行動する蟻も居れば、のんびり動く蝸牛も居る。 空を飛んでいると、名前を呼ぶ声が様々音色で聞こえてくる。 その心地よい旋律は、おらの耳を悲しませる。 つむじ風に巻かれた葉のような凄い速さで一羽の燕が飛んでくる。 その燕は、おらの横を通り過ぎ、地上へ向かう。 「嵐が降るぞー」 地上すれすれまで滑空した燕は、低空飛行しながら、地上に近い鳥たちに喚起を促している。 雲を見ると、地平線から黒い雲が押し寄せていた。 黒い雲は見る見るうちに空を覆い、地上を暗くした。 おらは急いで木影に急ぐ。 ピカリと黒い雲の中で光ると、大きな岩が転がるようなゴロゴロゴロという音が鳴り響いた。 ポタと一滴、雨の雫が滴ると、猛烈な雨が降り始めた。 やっとのことで、木影に入れたおらは、濡れた翼をバサバサと水を切る。 毛繕いをして、濡れて冷えた足を、折り畳んで、体の中にしまい込み、暖める。 足元に小さな新芽が雨に打たれて揺らめいている。 おらは、その新芽を上から翼で覆い、雨を凌ぐ。 新芽はプルンと一筋の水滴を流す。 ふと、地上から怯えに急き立てるように助けを呼ぶ声が聞こえた。 猛烈な雨の音でかき消されながらも、確かに聞こえる。 おらは真下を見下ろした。 ぐちゃぐちゃにぬかるんだ地面が見える。 至る所に水溜まりがある。 水溜まりは隣の水溜まりと一緒になりより大きな円を作る。 大きくなった水溜まりは小枝や木の実を激しく流す。 その小川に流される小枝を見送っていると、その先に一羽の雛が見えた。 水を被りながらも必死に這い出そうともがいている雛を小川は容赦なく流していた。 しかし、一度乗ってしまった流れからは出られない。
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