第二章 人間が名前を付ける

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 おらは独りで飛んでいる。 何回目の夕日だろう。 冷たい風に当たった体を温めてくれる。 時には雲の隙間から一筋の光線となって。 時には雨雲の中からほんのりと灯ることもある。 ふとね、思ったことがあるんだ。 夕日が人間なのではないかってね。 でも、夕日は、体を温めるだけで、おらを呼んではくれない。 おらが話しかけても返ってくることは一度もなかった。 だから人間じゃないってわかるんだ。 その時は、この自慢の翼を大きく広げて、風に乗る。 風に乗っている時だけは、何も聞こえなくなる。 おらを忘れることができる。 おらが消えているようで。 決して悲しいわけじゃない。 辛いわけじゃない。 何もないわけじゃない。 どんなに速く飛んで風を切っても、飛んでいるカモメの群れを追い抜いて、おらの大きな翼を自慢しても、通り過ぎる冷ややかな風は、おらを震えさせた。 おらの体温と一緒に、ぽっかりと、何もかも出て行ってしまいそうで、息を凝らす。 きっと、あの地平線に沈む夕日の先に行けば、おらを呼ぶ声が聞こえるんだ。 気が付けば、休むことも許さずに飛び続けていた。 どんなに急いでも、夕日はいつも先に行ってしまう。 「待って!」と叫びたいけど、叫んでしまうと、もう夕日に会えなくなるのではと怖くなる。 だから、ぐっと我慢する。 夜になれば、満天の星空が、空でキラキラとおらを励ましてくれる。 星たちは異なる色や輝きを放ち、一つとして同じ星は居なかった。 星たちが見守ってくれるから、夜も飛び続けられる。 いつの日だったか、星空に話しかけてみたことがある。 おらを励ましてくれるばかりで、返ってはこなかった。 おらは、満天の星空に向けて急上昇する。 ぐんぐんと上空に行くも、星たちはどんどん逃げていく。 どんなに進んでも星空には行けなかった。 夜明けになると、地上が色鮮やかになる。 動物たちやお花たちが朝を喜んで会話をしている。 お花たちが風で揺れれば、地上が混ざり合って、違う色を映しだす。 動物たちが踏み歩いた場所もまた色が変わる。 動物たち、お花たちが地上に色を塗っている。 居なくなったら、地上は何色になるのだろう。 皆はとてもキラキラしている。 おらはどんな色だろうか。 「朝日さん、おらはどんな色ですか?」 朝日は、おらの背を照らすばかりで、答えてはくれなかった。
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