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それでも綾は龍也に抱きしめられたまま
動く事が出来なかった。
口には出せないけど、ずっとこうして欲しかったからだと思う。
「俺だって一番初めに言う相手は綾だって分かってた」
龍也の声が体に響く。
落ち着きのある声で、でも今は少し熱を感じた。
「もし付き合いたてで綾をそこまで大事に思ってなかったらすぐに言えたさ。
でも、そうじゃねぇからさ、言えなかった。
俺が全部悪い。ごめん」
1拍置いて龍也が深く息を吸う。
「今更言い訳にしか聞こえないと思うけど
ちゃんと話すから聞いてほしい」
声が出せなくて綾は頷いた。
泣く寸前の声になってしまいそうだったから。
「俺が我慢出来ないと思ったんだ。
沢山会えば会うほど、離れるのが辛い。
だからいつも通りにしようって勝手に思ってた」
龍也はそこで黙った。
静かな夏風に電車の音が遠くで時折重なる。
「...そんなの、ずるい」
綾は繋いでない方の手で龍也の体を離す。
そして彼の目を優しく見つめる。
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