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船は今、砂漠の上空を飛んでいる。
安価なプランだったので、船の行き先を自分では選べなかった。
でも『異世界』へ行ければ何処でも良かったので、特に文句はない。
僕には・・・。
「まだ砂漠なの?もういい加減飽きたんだけど!」
旅の道連れとなった少女は、口を尖らせて悪態をついていた。
昼過ぎに『異世界』の砂漠へとたどり着いてから、もう数時間『異世界渡航船』は砂漠の上空を飛び続けている。
地球よりも広いというこの『異世界』の広大な砂漠を、小さな船で渡るのは簡単な事ではない。
それでも、時折吹く強い風の影響で空からの『敵襲』が無いだけましなのだそうだ。場所によっては空を縄張りにする強い、所謂『モンスター』の襲撃がある為、大きな船や最新の強化船でしか行けない所もあるらしい。
この船は小さな旧型船なので、安全な場所のみ選んで渡って行くという。
割りとビビリな僕には安全地帯のみの航行は嬉しい事なのだけど、彼女には違ったらしくさっきから文句が尽きない。
「だいたい、さっきの街だってそんなに危険そうには見えなかったわよ?」
少し前に砂漠の街の近くを通り掛かった。近くと言っても、高性能な双眼鏡で街の全体像が見える程度の距離に寄っただけだ。
彼女にはそれも不満の種らしい。
「でも、あそこは『協定』のある街じゃないから」
『異世界協定』の結ばれた街でないと、渡航者の安全が保証されない。
異世界人の中にはかなり危険な人種もいるらしいから、安全性を考えれば迂闊に街に近付くことはできない。
「え~、護身用具も有るし、上を通るくらい大丈夫でしょ?あんな遠いんじゃせっかくの異世界が楽しめないじゃない!」
「でも・・・」
「あ~、早く砂漠エリアを抜けないかな~」
少女はただ不平を並べたいだけのようだ。僕の反論を聞く気はない様子で、そっぽを向いてしまった。
少女の相手に疲れた僕は、小さく溜息をついて船室を出た。
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