僕らのヒーロー

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――今度は何をやらかしたんですかねぇ、アリシアさん。  幸児のクラスの窓からは、謎の追いかけっこの様子が非常によく見えるのである。  蘭堂アリシア。この学校の最大の有名人にして最大のトラブルメーカー。外国人が珍しくないこの町では特に目立つわけでもないが。明らかに日本人には見えない金髪碧眼、グラマラスなモデル体型の少女は、にこにこ微笑んで立っていればグラビアアイドルにも比肩することだろう。容姿は素晴らしいのだ、容姿は。問題は、そんなハリウッドスターばりの美しい見た目をしていながら、その中身が主に悪い意味で伝説だということである。  彼女はとんでもない怪力だった。うっかり壊した機械、穴を開けた壁の数は数知れず。そしてその肉体も細く見える外見に反して非常に頑強である。ヒグマをパンチ一発でKOしただとか、トラックを持ち上げるどころかブン投げたとか、一階の防火扉が大きく歪んでるのは彼女のせいだとか――とにかく、真実かどうかもわからぬ噂で溢れているのである。  次に、彼女はものすごい大食いだった。絶対に彼女とご飯を食べに言って奢ってはならない、はもはやこの学校の暗黙の了解と化している。回るお寿司を回らなくするぐらいには食べる。バイキングに言ったら文字通り海賊のごとく食い荒らされること間違いなし。きっとテレビの大食い女王選手権でも優勝できるはずだ、と言ってたのはどこの誰であったことか。  そして、さらには抜群の運動神経に反して、勉学はからっきしダメということである。授業の多くを夢の世界で過ごし、課題をすっぽかしては教師たちの怒りを買っていると大評判。そして、彼女が登校してくるたびに戦争が勃発するのである。今日もどうせ、出せと言われたレポートをすっかり忘れていたとか、まあそのへんなのだろう。大抵本人に悪気はないのだからどうしようもないことである。
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