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もうすぐ閉店時間の小さなスーパーから出て、袋を左手に持ち替えて歩き出す。
最近オープンしたばっかりの居酒屋は賑わっているようで外まで嬌声が聞こえる。
すぐ隣の鉄板焼き屋はしっぽり営業しているようだ。
あそこのたませんは美味い。
少し先に見えるガールズバーの前で細身の女の子がこちらに手を振っている。
愛嬌たっぷりで手を振り返し、その手前の角を曲がって身を隠す。
少し歩いた先に見えてきた赤いレンガ調の寂れたビルの2階。
『s’探偵事務所』
と書いてある看板はとっても控えめで、宣伝する気あるのかと疑いたくなる。
カンカンと音を立てて階段を上り、目の前に塞がる木造りのドアのノブを回して部屋に入る。
カランコロン…
入室のベルが頭の上で鳴る。
内装は彼の好みなのだろうか、アンティーク調でありながら少し高そうな木製の家具が多いように思える。
俺がパッと見ただけではこれっぽっちも価値なんかわからんが。
「遅かったな」
部屋の奥、入り口からすると左奥になるが、そこに鎮座するロッキングテーブルに肘をついてとっても不機嫌そうな顔でこの部屋の主が出迎える。
「ごめぇん!俺、人気者やけん?」
ワザとふざけた調子で答える。
主、改めぽんたは大きくため息をつきながら再び目の前の書類に向き直る。
「どうしたと?何か…」
バアン!!!
「おい!!誰や!!俺の牛乳飲んだん!!!!」
事務所の奥には、生活スペースが常設されている部屋がある。
そこには寝室や応接室、そして客を軽くもてなすための茶を出すキッチンもある。
しかしそのキッチンは基本的には俺たちの飯炊き様に使われている気がする。
誰かさんが美味い飯を錬成してくれるおかげで外で中華を食べられなくなってきた。
「せいじにぃ、うるさい」
「うるさいちゃうわ!!誰や俺の牛乳飲んだん!今日の分!」
突然そのキッチンからやかましく現れたのは、せいじだった。
今日はもう仕事終わりなのか、少し明るいピンクのシャツに高価なスーツ。
ワックスでセットされた髪を乱しながら意味わからん理由でバチぎれしている。
やかましい。
「あー?知らんけん」
「ほなって!ゆたー知らんゆうとるし!」
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