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「もー、せいにぃうるさいでー?」
奥の部屋から静かに現れたのは、ゆったん。
その片手にはキッチンで用意してきたのだろう、ホットコーヒーがあり、そのままゆっくりとぽんたのところへ歩き出し、流れるような仕草で彼にそれを差し出す。
「ポンちゃん今日はお疲れなんやから、静かにしたってー?」
天使の様な気づかいに、デスクにうなだれるように座っていたぽんたが感動している。
ありがたそうに片手を挙げ、カップを受け取りそっと口をつけて深い溜息をつく。
よっぽど参っているらしい。
全員が全員本名なんて知らんが、何も言わずともここ探偵事務所に集まってくる。
職業だってバラバラだ。
ゆったんはバーテン。
この商店街の少し奥にある路地のこれまた片隅にある綺麗なバーだ。
そこのオーナーをしているらしいこと以外知らない。
せいじはホスト。
この近辺にある有名なホストクラブのスタッフだ。
そこのナンバー2だということ以外知らない。
ぽんたはここ『s’探偵事務所』の探偵。
基本的に安い報酬で迷子犬探しから不倫調査までなんでもやっているらしい。
それ以外知らない。
そして俺は、まぁ、裏稼業だ。
一般的にはヤクザさんと呼ばれる。
後の細かいことはみんなよく知らないと思う。
こんなまるで共通点などないような俺たちの関係。
お互い大してどんな人間なのか知らない。
そんな俺たちの、集まる理由。
「本題入るよ」
デスクから顔を上げ、少し落ち着いた声で話し出すぽんた。
声色の変わったぽんたに全員顔つきが変わる。
「最近物騒な連中がゆったんのバーの近くにおるらしいな」
「そー。最近うるさいんよねぇ…」
ゆったんが笑顔のまま困ったような声をだす。
「せいじにぃ」
「んー最近調子乗っとる奴が来とるらしいで?
ここらに来てまだ間もないんちゃうかなぁ?」
「俺の同業や?」
「違うと思う。発砲騒ぎは無いらしいしな。
それにこのエリアでアホするんなんて絶対俺らの事知らんって事やろ。
ソッチ方面には俺らちょっとは知られとるらしいしな。」
各々が仕事場で仕入れてきた情報を提示していく。
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