1:Y’s side

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今日のお店は静かだ。 カウンター席に常連の男性が1人。 こじんまりとしたテーブル席3つのうちのひとつに男性客が2人。 時刻は24時過ぎ。 一応閉店時間は25時だけど、その日のお客さんによって変動させている。 今日はそろそろ閉めてもいい頃合いかなぁ…と、バックヤードにいるスタッフを呼んで軽く閉め作業を頼もうとしていた時。 お店の薄っぺらいドアがゆっくりと開く。 「あ、しお」 「やほーゆったん」 彼女はドアを後ろ手に丁寧に閉めて、てくてくとこちらに歩いてくる。 僕の目の前のカウンターまできて、何やら重たそうな袋をドサッと置き、ふぅ!と一息つくと目を合わせ、再び挨拶される。 「こんばんは、ゆったん」 それと同時に彼女の羽織っていたジャケットの胸ポケットから、スルッと紙切れが取り出される。 「ん、こんばんはぁ。夜遅くにごめんやで」 しおはその紙切れを、カウンターに伏せてススッと僕の手前まで滑らせる。 「いいんよーう、だってこの時間になってしまったのはしおの勝手やし。」 会話を交わしながらお互いに手元を見ることは無い。 すぐそばに来た紙切れを横目に数秒眺め、直ぐにカウンターに備え付けのキャンドルの火に近付け、燃やして塵にする。 「ありがとう。仕事が早くて助かるわー」 「ほんっと!みんなもっとしおに感謝してもいいと思うの!」 むすっと頬を膨らませ、カウンターに前のめりになる彼女はとても可愛らしいが、もうお馴染みの顔過ぎて苦笑いを零すしかない。
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