1:Y’s side

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すると直ぐにまた店の扉が開き、静かに店内に身を滑り込ませてきたのは。 「あら、顔文字さん」 その人は、この現代日本においてとても浮いた出で立ちで現れる。 まず目に入るのは顔を覆う狐面。 身に纏うは、牛若丸を彷彿とさせる白生地の和装なのだ。 いくらこのエリアが狂った奴らの集まりでも、この人の格好はとても目立つ。 しかしこの人は気にも止めない様子でするりと店内に入り、僕の前まで一本下駄をカラコロと鳴らしてやってくる。 そしてスっと懐から紙切れを僕に差し出して、開いてみせる。 「…ん、この字は…」 そこに書いてあった内容と、文字に心当たりがありぼそっと呟くと、しおが嬉しそうにぴくっと反応する。 「正解やにー」 彼女が勘づいた人物で合っているようなのでそう言ってあげると、嬉しそうに両手を頬に当てて悶え出す。 「あーやっぱり?!もう…やっぱり仕事早いしかっこいい!!んもう!!かっこいい!!」 「あーー出た出た、ボキャ貧」 「ボキャ貧だよう!!分かってるもん!!」 キャンキャンと鳴いているしおは置いておいて、僕が紙の内容を読んだのを把握したのか顔文字さんはそれをまた懐にしまい、また新しい紙を差し出す。 今度はそっとカウンターに置いて、すぐに踵を返す。 置いていかれた紙切れを見ると、そこには 『ご贔屓にどうも owo』 とだけ書かれていた。 最後のowo、が顔文字に見えることから、顔文字さんと呼ぶ様になっているのはこの界隈では共通認識だ。 顔文字さんは店のドアをそっと開き、1度だけ振り返り、ヒラヒラと着物の袖をこちらに振ってから、するりと帰っていった。
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