海賊の頭蓋骨に挿した薔薇

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「スイカバーを溶かしたみたいな色の海ね。あ、皮の青緑は考えないでね」 そう言ってアイスに齧りつくのはいいけれど、彼女が握っているのはバニラにチョコレート・ソースをふんだんにかけたソフトクリームで、決してスイカバーのような氷果を連想させるものではない。私は生返事をしながら、そこに含まれた弱さについて考える。 敢えて皮の部分に言及したのは、彼女にはそう見えているからだ。海は青い、と知覚しているからだ。私は、自分にもこの茫漠の海が青く見えているのだと、そうは言わない。もし万が一「今日の海も真っ青ね」などと言ってしまえば彼女が離れていくことはわかりきっている。そしてそれだけのことに私は耐え難い苦痛、予想以上の孤立感を覚えるだろう。他人の痛みに敏感な彼女はそれでも尚同じ穴の貉をなによりも嫌う性質だ。同族嫌悪が甚だしい、一人のか弱き少女だった。
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