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渇いた女
市街地から北に数十キロ
冬には雪が積もり、夏には蛍が飛ぶ。
今では希少価値と言われるような自然に囲まれた田舎で、私は息を潜めて生きている。
同じ歳の次男坊と結婚して12年。
近所に住む口うるさい姑と、姑と同居している義兄の嫁と、なるべく関わり合わないようひっそりと。
私は世渡り上手で出来た嫁を演じる。
何と無く結婚してしまった。
ううん。結婚はしたかった。
あの家から連れ出してくれる王子様を、私は待っていたから。
夫に対して愛はあったのか。
あった、はず。
だがそれは誰に対しても持てる物だったのかもしれない。と気付いたのは、2度目の不倫を経験した時だった。
全てはタイミング、と言うけれど。
タイミングのせいにして運を嘆くのはバカらしい。
過ぎた事は忘れればいい。
あんな経験もした、と。
目の前に少しでも生きていく楽しみがぶら下がっているなら…
それにしがみつかない手はない。
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