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「ハル…大丈夫だから…」
タケシの言う『大丈夫』には、全然説得力はなかった。
そして私は思い出していた。
私の頭を撫でる、毅彦さんの包容力を。
なぜか、あの人の腕の中では安心できた。
抱かれてもいなかったのに…何かを信用できた。
その何かが、何かも分からないまま…終わってしまったけど。
今は自分が壊れるのが怖い。
そして翌日。
タケシは、車で一時間以上かかる場所の心療内科に、私を連れて行った。
どうして、こんなに遠く?と思ったけど…
世間体が気になるのだとすぐに気付いた。
教師の妻が、心を病んでるなんて…と、タケシと義母とで話し合ったに違いない。
「最近、何かショックを受けるような事がありましたか?」
父親よりも年上ぐらいの先生が、穏やかな口調で言った。
「ハル、何かあったか?」
「……あっても言えません。」
その言葉に、タケシと先生は顔を見合わせた。
「言えないか。じゃ、言いたくなったら話してください。夜は眠れますか?」
「…眠れますが、何時間かおきに目が覚めます。」
「食欲がないと書いてありますね。いつ頃からですか?」
眠くなった。
質問されるのは嫌いじゃなかったのに。
眠りたいと思ったら、自然とまぶたが閉じた。
目覚めると、私は病院のベッドの上で点滴を受けていた。
何の点滴?と思ったけど、栄養剤だった。
そばにタケシの姿はなく、それがまた…私をガッカリさせた。
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