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「ハル、話があるんだ。」
一階の角部屋で寝床を用意していると、風呂上りのタケシが真面目な顔でやって来た。
「何。」
「…俺の浮気相手の事だけど…」
「どうでもいいわ。そんな事。」
「良くない。いつから…知ってたんだ?」
「何を。」
「…相手の事。」
「……」
入院中、タケシの浮気相手が見舞いに来た。
タケシから話を聞き、自分のせいと感じたらしい。
今まで申し訳なかった。
離婚しないで欲しい。
床に額をこすりつけて謝った。
私は、それを冷めた目で見ていた。
自分のせいと思うほど、あなたはいい女?
私があなたに負けて、離婚を決意したとでも思っているの?
浮気相手の妻に、自分のせいで別れないでくれと頭を下げれば解決すると?
口には出さなかったけれど、私は敗北感にも似た気持ちに苛立った。
それでも。
これからも、タケシを同僚として大切にしてやって下さい。と笑顔で言った。
顔を上げたその女は、私が想像していた以上に覚えられない顔立ちだった。
そして思った。
普通の女は得だ。と。
見映えのいい女はできないと損をするが、普通の女は少しできれば得をする。
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