プロローグ

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朝、キンと冷えた冬が部屋の中で静かに横たわる。それに触れたくなくて、人肌で温まった布団の中で寝がえりをうち、薄暗い部屋から濃い緑色のカーテンの方を向く。布団の中から腕だけを外気に晒し、ベッドと壁の間に入り込んだカーテンの裾を持ち上げれば、白い明かりが僅かに部屋に入り込んできた。 布団ごと起き上がり、一気にカーテンを目いっぱい開く。眩しさに目を細めつつ、明かりの入った真っ白な室内に目を逃がした。綺麗に整頓された木製の棚には、透明な瓶がいくつも朝の光を反射していた。 恐る恐るプールに足を入れるような、待ち受ける冷気を想像しつつ足を布団から思いっきり抜き出す。その勢いのまま軽く弧を描き、ベッドからも下ろす。ザラザラしたカーペットの布の肌触りが直接足裏を撫ぜる。 「おはよう、宗一郎」 ベッドに腰かけ一番自然な姿勢をとった時、真っ直ぐ目の前にくる位置には可愛らしい古ぼけた写真立て。その中の写真では、若いと形容するには幼い彼は恥ずかし気にVサインをとり、対して私は下手くそな笑みを浮かべている。 私は随分と上手くなった笑顔を口元に浮かべ、そして布団から勢いよく飛び出した。その瞬間だけ、静かな住宅街には私の衣擦れの音だけが全てだった。
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