第一章 白いヴァイオリン

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校舎を出れば、白球を同級生がグラウンドを駆けまわっていた。数歩、外に出るだけで直射日光に辟易とする。大久保に目線をやると、数歩先にいながらもこちらを振り向き、苦笑いしている。 既にやる気は地面を抉れるくらいにダダ下がりである。ノロノロと大久保のもとに歩き、右側につく。 「あともう少しで部室棟だ。頑張れ」 そう言うと、私の頭の上に右手をかざした。いくら私の手よりも大きいとはいえ、実際帽子や傘ほどの役にもたたないが、彼は手をかざした。 節ばった男の手が私の頭の上を、天使の輪っかみたいにくっついてくる。これならサンバイザーの方がマシです、と可愛くないことを口走っても、彼は小さな笑い声を漏らすだけであった。 瞳を上に向ければ、木洩れ日よりも鋭く夏の日差しが指の隙間から突き刺してくる。しかし大久保がこちらの視線に気が付き顔を傾ければ、彼の頭で太陽が遮られる。逆光で顔には影が落ちるが、笑顔でいるというのは雰囲気で伝わる。私も笑い返すべきか否か迷い、結局そのまま視線を前に戻した。 高校球児たちの叫び声を聞きながら、暑さに突き動かされるように足早に歩く。私の早歩きは、隣の大久保にとってはちょうどいいのか、ゆったりとした(私基準の)大股で進んで行く。 「さあ、さっさと入ろうか。流石に俺も暑い」 「やっぱり帰るか呼び出せばよかったんですよ」 「それは相手に悪いからなぁ」 彼はそれだけ言うと、私を置いて足早に進んで行ってしまった。私はカルガモの雛のように、彼よりも狭い歩幅で懸命に半ば走りながら付き従った。
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