第一章 白いヴァイオリン

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旧校舎を改築した古びた建物を見上げる。私たちが通う高校は大正時代に建てられたものであり、幾度か敷地内の範囲で校舎の位置を変えつつ続いてきた。 今の校舎が十年ほど前に完成した際、旧校舎もまた縮小化・耐震工事・エアコンの取り付け等が行われ今は部室棟として機能している。私たちが今日取材する予定の弦楽部は部に昇格と同時に、3階の隅の教室に部室を貰ったということだ。そんなことを奈津子が嬉しそうに話していた覚えがある。 白く清潔に塗りなおされた外壁は夏の陽光を反射させ、見上げれば目に痛いくらいだ。ドラムのリズミカルな音や、アンプを通したエレキギターの機械的な音が部室棟を囲んでいる。軽音楽部の音を突き破るように、トランペットの軽快な音が青空に吸い込まれていく。 部室棟内に入れば音は一層大きくなる。木製の下駄箱の空きにローファーを放り込み、代わりにプラスチックの箱に乱雑に詰められているスリッパに履き替える。 既に大久保はスリッパを鳴らしながら先に進んでいる。のんきな音をたてながら、私も階段に向かった。
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